一番たくさんマンガを読んでいたのは、小学生の頃(1970年前後)だったと思う。散髪屋や医院の待合室で、あるいは友達に借りて読むことも多かったのだが、当時の私には週刊漫画雑誌を毎号途切れなく買うという習慣がなく、読んでみて前週と話がつながっていればラッキー、間が抜けていれば想像で補うというテレビアニメやドラマを見るのと同じような読み方をしていた。

「火の鳥」「ブラックジャック」「デビルマン」といった有名なマンガは、高校生以上になってから全編通して読み直す機会があり、当時は理解できなかった詳細がわかった。これを私は「マンガの答え合わせ」と称しているのだが、答え合わせができずに私の記憶の底に沈んでいるマンガの記憶もいくつかある。しかしこれはこれで大事な記憶なので、答え合わせをして消えてしまう前にここにいくつか書き留めておきたいと思う。

当時のジャンクカルチャーの評価は「エロ・グロ・ナンセンス」といって蔑まれていたきらいがあったのだが、こうして書き出してみると「エロ」と「ナンセンス」はすっかり時代が追い越してしまって、残っているのは「グロ」ばかりだなあということに気が付いた。昨今は規制が厳しくて、当時のようなスタイルのグロは登場できないのではないかとも推測する。

「光る風(1970)」山上たつひこ
 理由もなく刑務所のような場所に囚われた少年が、施設を脱出する。このコミックで覚えているのはこの脱出(脱走?)シーンだけ。彼は仲間と汲み取り便所に入り、地下排水パイプを通って外の汲み取り場所まで汚物の詰まったパイプを通り抜けて脱出する計画を立てる。パイプの長さは推測で50メートル。排泄物の中にもぐって50メートル泳がなければならない恐怖。失敗したら排泄物をたらふく吸い込んで死んでしまう。

 後にギャグマンガ「がきデカ」が大ヒットする山上たつひこの初期の作品。ベトナム戦争や学生運動などの世相を反映した作品だったらしいが、そんな社会情勢は小学生がわかるわけもなかった。